ベンチャー企業の調査分析を手がけるベンチャーエンタープライズセンターによると、国内ベンチャーキャピタルの2017年度の投資額が前年度比26・5%増の1883億円に達したそうだ。

年々スタートアップ業界に流れるマネーの額が増えていることは、これから会社を立ち上げる起業家や資金調達を考えている起業家にとっても喜ばしいニュースである。

さて、そんな巨額のマネーを動かしている企業の中で、今年も我々に大きな衝撃を与えた日本企業といえば、やはりDMMだろう。

特に今年の下半期、DMMは立て続けに行われた買収と売却で大きく話題となった。

今回は前後編と2部構成で特集する。前編では、下半期DMMの買収売却案件を取り上げながら、各ディールにおけるDMMの買収・売却意図について触れる。後編では、2017年度から2018年度の買収ニュースから巨額マネーを動かし続けるDMMの中の人(代表の片桐社長)、新たに設立されたCVCについて分析していく。

—————————————————-

—————————————-

———————-

 

2018年下半期DMM買収売却の概略(DMMの買収・売却意図)

 

2018年10月12日

DMMが終活ねっとの発行済株式総数の51%を取得 買収額は10億円程度

 

お墓や葬儀関連の情報ポータルサイトを展開する「終活ねっと」は2016年9月に設立された

スタートアップ。代表の岩崎翔太さんは現役の東大生。主要メンバーは4人だが、メディアのライター・編集者などの大学生を含めると約40人が在籍するスタートアップである。

同社は設立から約2年でDMMからの買収を受けた。DMMは終活ねっとを買収するとともに、2名の取締役を派遣。終活ねっとの今回の買収受け入れの背景としては、DMMが保有する人材やサービス基盤、資本、ビジネスノウハウを活用することで、終活サービスのITインフラ化に向けた整備、サービス拡大を加速していくというものである。

DMMの買収の意図としては、「若い起業家の成長を支援するもの」とコメントしている。しかし、この買収の背景には、終活や葬儀関連のメディアを運営し多くのデータやナレッジを保有している終活ねっとを買収・子会社にすることで、“終活”というすべての人に関わる巨大市場に対してのアプローチを容易にできるという狙いがあると考えられる。

 

2018年11月7日

CASHを運営するバンク社がDMMからMBO 売却額は5億円

 

ユーザーの持っている中古アイテムの写真を送ると、瞬時に買い取ってキャッシュに替えるサービスを展開しているスタートアップ、株式会社バンク。2017年11月にDMMが70億円で買収したCASHを運営するバンク社が、今回5億円でDMMから5億円でMBO(マネジメントバイアウト)を行い、DMMからの独立を発表した。

バンクの代表である光本さんはMBOを2回経験している。2008年にSTORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)」などを運営する株式会社ブラケットを創業、その後ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ(現ZOZOTOWN)へ売却(その後MBOにより独立)している。どちらの事業も、リリース後かなり早いタイミングで買収されており、光本さん自身のビジネスアイデアの評価の高さや事業としてのポテンシャルが認められた結果である。

しかし、今回のDMMからのMBOは少し波紋を呼んだ。(DMMからのMBOに関しては後述する)

 

2018年11月22日

DMMがプログラミングスクール「WEBCAMP」運営のインフラトップの発行済株式総数の60%を取得

 

インフラトップは、オンラインとオフライン融合型のプログラミングスクールを運営しているスタートアップである。2014年11月に、学生起業家でサイバーエージェント・ベンチャーズやリクルートなどでキャリアを経験した大島礼頌さんが設立した。DMMからの買収までに、East Venturesから計2回、約2億円の資金調達を完了している。DMMへの子会社化に至るまでの4年で、売上や受講者数は300%の成長規模があり、同スクールからの卒業生は3000人、転職率も98%と質の高いサービスを多くのユーザーに提供している。

今回の買収で、DMMはインフラトップへの資本参加だけでなく、DMM.comのCTO松本勇気氏およびCOOの村中悠介氏が同社の取締役として参画することもあわせて発表した。

DMMへのグループイン及びCTO、COOの参画によりWEBCAMPのプロダクトおよびコンテンツのクオリティ向上、サービス展開の拡大といったメリットが見込まれる。

DMMの買収の狙いは、すでに同社がサービスとして展開しているDMM英会話に続き、プログラミングの領域への新規参入である。オンラインスクールとして英会話もプログラミングも同じものであるが、プログラミングをオンラインで提供できる人材の獲得と知識を今回の買収によりDMMは得られた。

 

2018年12月13日

クイズ買取サイト「AQUIZ」がDMMに1円で事業譲渡

 

株式会社レイヴンは、ユーザーがPCかスマホでクイズを作成すると、同社が1問10円程度で買い取るというサービス「AQUIZ」を展開するスタートアップである。今回、レイヴンはDMMにこの「AQUIZ」を1円で事業譲渡した。

レイヴン社の「AQUIZ」をたったの1円でDMMに事業譲渡したというのも特徴的だが、このニュースで注目したいのはやはりレイヴン社の代表でもある飯野太治朗さんである。

飯野さんは、事業を作っては軌道に乗せて売却まで行う、「0→1」のプロである。

2014年11月のレイヴン社設立前に、移動販売車でタピオカドリンクを売るビジネスを行っていた。そのビジネスは軌道に乗せたのち売却を行っている。

また、設立後レイヴン社ではフードデリバリー事業やウェディングメディアの「DIAER(ディアー)」を立ち上げた。その事業も、事業譲渡を完了している。

そして、2018年5月にリリースしたサービスが、今回DMMに売却することになった「AQUIZ(アクイズ)」である。

今回の事業譲渡の話を持ちかけたのは、DMM側からではなく飯野さんからである。

これまでは事業譲渡の際にサービス相当の報酬を得ていた飯野さんだが、今回は“1円譲渡”という価格設定を行った。この背景には、DMMでこれから「AQUIZ」サービスを成長させていくことで生まれる成果や、飯野さんが得意とする0→1の経験をDMMで生かすことで生まれる成果から報酬を受け取ればいいという考えがある。

企業が成長し続けるために必要な力は、新規事業を創出する力と、立ち上がったサービスを軌道に乗せる力、そして軌道に乗ったサービスをグロースさせる力である。

飯野さん率いるチームがDMMに参画することで、DMM社内の新規事業創出スピードが上がり、さらには軌道に乗せてDMMの事業の主軸に近いものを生み出すことができる可能性は大いにある。その可能背を高く評価したことが、今回DMMの買収意図ではないだろうか。

——–

———————

————————————-

2018年下半期の買収ニュースは表に出ているものだけでも3件ある。CVCをはじめ、事業会社や大手企業がスタートアップの買収を行う理由として、事業シナジーがあるから、新規事業として社内に取り入れるため、成長のサポート、そして優秀な人材の獲得といったものがある。

 

DMMが買収によって得られているものの大部分は、“人材の獲得”と“新規事業の取り入れ”が大部分を占めている。

DMMという大きな箱には主事業のアダルト以外にも英会話やビットコイン、留学サービスや格安スマホ販売といった多くの事業が存在している。

非上場企業だからこそ、いくつもの新規事業に着手できる環境があり、新規事業を行えるだけのリソースがある。DMMはスタートアップ・起業家からすると魅力的な土壌なのかもしれない。そう考えると、DMMには優秀な人材を惹きつける引力が集まっている。

実際、DMMのCクラスにはグノシーのCTOとしてKDDIと共同開発した「ニュースパス」の立ち上げや、ブロックチェーン事業子会社のLayerXの立ち上げなどを手がけてきた松本勇気さんが現DMMのCTOを務めている。

そんな優秀な人材を獲得できるDMMだが、唯一取り込むことができなかった逸材がいる。それを前編の最後にご紹介して締めたいと思う。

 

 

“敗軍の将語らず” わずか一年で65億のCASHが消えた、苦肉の売却

 

DMMの買収売却案件で2018年下半期にもっともスタートアップ業界をざわつかせたニュースといえば、バンク社がDMMからMBOを実施し独立した件ではないだろうか。

単なるMBOでは、あれほどまでに業界の話題にはならなかったかもしれない。しかし、このMBOは少し話が違う。概略としては、DMMが2017年11月に70億円という巨額マネーで買収し子会社化したバンク社を、光本さんはそのわずか1年後にたったの5億で買い戻し、DMMから独立した。

このMBOの何が話題になったのかというと、DMMはBANK社の評価額以上、代表である光本さんの言い値である70億円という高値で買収を行ったにもかかわらず、1年足らずに65億円の損失を出して売却を行ったという点だ。

SNSでも多くのスタートアップ界の著名人がこのニュースに対して驚きを隠せずにはいられなかったが、明確に言及しているものは誰一人いなかった。

そこで、今回このMBOに至った考えられる要因2つについて述べたい。

 

 

膨らむ赤字?

 

バンク社が運営するCASHのサービスモデルは、前述した通り、ユーザーが保有する中古品を買取り、再販するという至ってシンプルな形だ。

しかし、ユーザーから買い取る中古品に対して厳格なルールはなく、言わばどんなものでも買い取ってくれる便利屋に近い。

さらに、瞬時にキャッシュに変わるため、ユーザーから買い取った中古品を再販して自社の売上に反映する時間と溜まっていく中古品の在庫の管理を考えると、このビジネスは非常に費用がかさんでしまう。

中古品買取の速さと簡単さから、リリース開始から大きな話題となり、わずか16時間半でサービス停止を余儀なくされた魅力をもつCASHだが、仕入れの簡単さと話題性に振り切った代償に、出続けるキャッシュと増える在庫、中々黒字に転換できないビジネスモデルが5億円のMBOを実施するに至ったDMMの思惑ではないだろうか。

 

光本さんの暴走?

 

中古品買取サービスでいえば、2018年6月にDMMも中古車買取の「DMM OUT」というサービスをリリースしている。スマホで写真を撮るだけでクルマを現金化できる、いわゆる「CASH」のクルマ版である。中古車市場に参入を考えていたDMMは、企画から1年でDMM OUTを事業化にまでこじつけた。巨額の資本を持っているDMMだからこそできるサービスである。

そして、その3ヵ月後の同年9月にバンク社も中古車買取のサービスをリリースしている。注目したいのはそのリリース文の最後の一文である。

 

バンクを傘下に持つDMM.comも2018年6月に、スマホで完結する中古車買い取りサービス「DMM AUTO」をスタートさせている。ただし、DMM AUTOは、今回のCASHの車買い取り機能とは、無関係だという(バンク広報)。(参照:https://www.businessinsider.jp/amp/post-174564)

 

親会社のDMMがサービスリリース後、3ヵ月で子会社でもあるバンク社が全く同じサービスをリリースしている。

DMMが一年以上前から企画で進めていたとすると、言い方は幼稚になってしまうが、バンク社が親会社であるDMMのサービスをパクッたようにも見えてしまう。(事実、パクッたのかもしれないが真相は分からない)

本来であれば、DMMとCASHを運営するバンク社が共同でこのサービスをリリースしていれば何ら違和感はなかったのだが、この動きから把握するに、2018年のこの時点でDMMとバンク社の光本さんとの関係性が疑われる(不仲説もあるかもしれない)。

70億で買ったものをわずか5億で売るしか無かった」という、若干詐欺のようにも感じる双方が幸せになれなかった感が否めない今回のMBOであるが、DMM会長である亀山さんの“敗軍の将、語らず”という言葉に全てが詰まっているような気がした。