前編では、下半期DMMの買収売却案件を取り上げながら、各ディールにおけるDMMの買収・売却意図について触れてきた。下半期の買収売却だけで小さく見積もっても30億円はマネーの移動があったと考えられる。(2017年下半期からの1年と考えると100億円は優に超える)後編では、2017年度から2018年度の買収ニュースから巨額マネーを動かし続けるDMM買収実行のトップでもある代表の片桐社長と、新たに設立されたDMMのCVCについて分析していく。

 

DMM.comの片桐社長について

 

まずは、DMM.comの代表取締役である片桐社長についての経歴をここではご紹介したいと思う。片桐孝憲(かたぎり たかのり)さんの最初の起業キャリアは2005年のウェブ制作会社ウェブテネットだ。2007年には、大学時代の知人が立ち上げ急速に人気を呼んだユーザ投稿型イラストサイト「ピクシブ」の運営を会社として引き受け、片桐さんは知人とともにサービスを成長させた。後に自社の社名をピクシブ株式会社とし2008年から事業をピクシブに一本化したのである。そして、2017年1月にDMM.comの代表取締役社長に就任した。

この就任により、これまで創業者の亀山敬司さんが担当していたインターネット関連事業を引き継ぐことになった。売上2000億円、従業員3000人という日本を代表する未上場ベンチャー企業の代表に外部人材を登用するという亀山会長の行動は、前代未聞の人事抜擢と呼ばれたほどである。

 

2017年DMM.com 怒涛のM&Aニュース

 

2017年の1月に片桐さんがDMM.comの代表に就任してから好評ベースで5件ものM&Aが実施された。まずは、買収した5件を時系列でご紹介したい。

—————————————————

————————-

————-

 

買収① 2017年1月11日

3Dプリント事業を手掛ける株式会社アイジェットの全株式を取得し、DMMの子会社となる

 

アイジェットは2009年5月に創業し、製品試作、建築模型といった3Dプリント出力領域、および3Dスキャン技術や3Dモデリングなど3Dデータ入力領域の拡充に取り組んできた企業。子会社化に伴い、親会社DMM.comが展開するDMM.make 3Dプリントとの連携を行うことで、国内最大級の3Dプリント事業規模となった。

 

買収②・③ 2017年1月26日

クラウドストレージアプリ「POOL」を開発・運営するピックアップ及び音楽アプリ「nana」の開発、運営を行うnana musicの株式を取得し、子会社化

 

手軽な操作で利用できる画像、動画用のクラウドストレージアプリ「POOL」サービスを提供するピックアップは2014年に設立。代表取締役の宮本拓さんは、鶴岡社長率いるBASEでの勤務を経て独立した人物である。

POOLのユーザー数は2017年の買収時点で160万人、34億枚の写真が保管されていた。

音楽のセッションやコラボレーションを楽しめるアプリ「nana」を提供するnana musicは2013年に設立された。サービスは法人登記前の2012年8月にスタート、ユーザーの7割が18歳以下という若いコミュニティのサービスでもあり、2016年12月には世界累計300万ダウンロードを達成している。

 

買収④ 2017年2月24日

オンラインサロンサービス「Synapse」を運営するシナプスの株式を取得し、子会社化

 

シナプスは2007年にモバキッズとして設立、インディーズコミックのCGMや電子書籍プラットフォームを手がけたのち、2012年2月にSynapseを立ち上げ、4月から月額会員制サロンサービスを始めている。DMMの買収までに、サムライインキュベートやプライマルキャピタル、ディー・エヌ・エーから資金調達を完了していた。

Synapseでは多くの作家、実業家、アスリート、モデルなどがサロンを開設。2017年の買収時点でサロン数は約300個、有料会員数は約1万3000人に上る。

 

買収⑤ 2017年11月21日

アイテムをスマートフォンで撮影するだけで買取するCASHを運営するバンクの全発行済株式を取得し、完全子会社化

 

2017年2月20日に設立された株式会社バンク。同年6月にサービスリリースしたCASHは、開始16時間で3.6億円以上のアイテムをキャッシュ化し、集荷依頼アイテム数は7500個に達したため、査定サービスを一時停止するというほどに話題を呼んだ。そんな何かとニュースを呼んだバンクがサービスリリース4ヶ月でDMMの子会社となった。

 

——————–

———————————–

—————————————————

 

先陣を切った片桐社長の買収スタイルとは?

 

さて、2017年DMM.comの買収は片桐社長を筆頭に行われてきたが、就任1年で5件もの買収に関与した片桐社長の買収スタイルについて分析していく。

事業会社をはじめとした、大手企業がスタートアップを買収する際の基準は実に様々である。

一つは、PMFやビジネスモデル・収益性から判断し、子会社化することでさらなる事業拡大と売上増加につながることを見越して実施される買収。つまり、事業シナジーを見据えての買収である。

では、片桐社長の買収スタイルはどういったものだろうか。

片桐社長は元々ピクシブの代表を務めていたこともあり、インターネット関連の事業に知見が深く、思い入れも強い。だからこそ、元来亀山会長が担当していたインターネット関連事業の責任者を任されたのである。

DMM.comのスタートアップ買収の基準軸として、亀山会長がビジネスモデルに強みを見出して買収するスタイルであれば、片桐社長はビジネスモデルよりネットカルチャー、多くのユーザーに愛されていて、独自の世界観を持つサービスを買収するスタイルである。

「多くのユーザーがいて、世界観が確立されているサービスであれば、後からビジネスモデルはついてくる」という、ピクシブ元代表らしい片桐社長の考え方である。

また、買収された各スタートアップの代表のコメントに共通している点がある。それは、“片桐社長だから”DMMの買収ディールに踏み切ったという点だ。

ビジネスモデルはないが、可能性を秘めている

価値のあるサービスに目をつけて買収に踏み切る、ネットリテラシーの高い片桐社長だからこそ実行できるM&Aだと、上記5件のDMMによる買収ニュースを見て感じた。

 

 

片桐社長、買収案件から失脚か!?最新のDMM買収ニュースから見る片桐社長の今

 

そんな2017年にスタートアップ買収で一斉を風靡した片桐社長だが、めっきり音沙汰を聞かなくなってしまった。バンク社のMBOの件あたりからの話である。

これまでのピクセルやnana、シナプスやバンクの買収ニュースには必ずと言っていいほど、各スタートアップの代表と片桐社長がツーショットで写っている写真がアイキャッチ画像に設定されている(もしくはコメントをしている)。しかし、2018年下半期に買収された終活ねっと及びWEBCAMPのインフラトップ、そして1円譲渡のレイヴンについてはDMM.comのCTOの松本さんかCOOである村中さんがコメント及び写真に写っていた。

想像するに、バンク社のMBOについては、いくら巨額マネーを保有するDMMであっても65億円という損失は大きく、さらに片桐社長自身の買収行動に痛手を負う形になったのではないだろうか。

意思決定の早い買収は、スタートアップにとっても喜ばしいことである。

さらに、買収することでそのスタートアップの成長スピードが飛躍的に上がり、結果を残してくれるのであれば、買収した側も恩恵を被ることができるため、双方win-winとなる。

一方、深く考えずに実行する買収には失敗する可能性も大きくはらんでいる。バンク社の買収はDMMにとっても教訓になったのではないだろうか。

片桐社長のバンク買収、そして買い戻し損失によるDMM社内のほとぼりが冷めるまで片桐社長個人としては、しばらくDMMの買収案件から身を引くのではと考えられる。

 

さて、ここまでDMM.comによる買収ニュースや買収スタイル、片桐社長について述べてきたが、DMMはスタートアップ投資も始めている。DMMが設立したCVCについて次に述べていきたい。

 

 

DMM.comが新CVC設立 『DMM Ventures』

 

DMMは、ベンチャーコミュニティ活性化に向けて、出資比率1〜5%を基準としたマイノリティ出資をしていくCVC『DMM Ventures』を2018年10月に設立した。100億円規模のCVCということで、来年度以降の資金調達ニュースにDMMが多く参画してくる可能性は高い。

若手起業家への支援を目的とし、2018年12月時点で2社の投資実行を発表している。

 

・1号案件:ビデオチャットアプリ事業「Happy Hour」

 

2017年2月に設立したCutesy, Inc.の代表は、マイケル・アイドリンさん。彼は、2017年に日本で翻訳のクラウドファンドアプリ「ペラペラ」もリリースしている。出資金額は1000万円。

 

・2号案件:IoTティーポットの製造・販売、アプリを通じた茶葉の販売事業「Teplo」

 

出資金額は、一号案件と同額の1000万円。

代表である河野辺和典さんは、2014年からアメリカの大学でMBAを選考し経営を学ぶ傍ら、2015年にクラスメイトと米国法人LOAD&ROAD, LLC.を設立。卒業後も本事業を続け、2018年には日本法人の株式会社LOAD&ROADを設立した。

 

DMM.comによるCVC設立の狙いの一つに、優秀な人材の獲得が考えられる。

一方で、投資意思決定の早さやDMMが保有するテクノロジーやデータといったリソースを活用できる点でスタートアップにとっては事業拡大の後ろ盾となってくれる。

また、出資比率の基準を明確に出してくれている点を見ても、スタートアップにとってはありがたいであろう。

以上、前編後編を通してDMMの買収行動ととスタートアップの関わりについて述べてきた。未上場企業だからこそ、上場企業とは異なる性質を持っているDMMは大変興味深い。今後もDMMの動向について追っていきたいと考える。