スタートアップの成長という文脈で必ず出てくるといっても過言ではないのが、ベンチャーキャピタル(以下VC)の存在

彼らは、事業会社や大手企業などから集めた資金を彼らの代わりとなり成長見込みの高いスタートアップに出資を行い、資金面のみならず事業運営や人材採用、広報活動といった様々な側面で支援を行なっている。

そんな中、VCに出資するLPとしての存在であった大手企業が、自らファンドを立ち上げる流れが2011年頃から活発化した。

CVCは、大手企業や事業会社が戦略目的をもって事業シナジーのあるスタートアップに投資を行う。

しかし、いったいどれだけのCVCが本当に自社の戦略目的を理解して、シナジーがあるスタートアップを見極めるスキルを持っているのだろうか。

日本人は非常に慎重な性格だ。だからこそ、意思決定に時間がかかり、腰がかなり重い。
一方で、リスク予測をしっかり行い、下準備には余念がないという利点も持ち合わせている(と思っている)。

そのため、CVCという言葉が出てきた当初は、大手企業や事業会社も
「自社に投資判断のできる人材がいないから、CVCを設立したくてもできる環境ではない」といって諦めるところも多かったのではないだろうか。

 

翻って今はどうか。

VCというワードや、スタートアップ投資という取り組みが普及し始め、支援する人を支援する団体が誕生したり、スタートアップ投資に関する情報がインターネット上で多く見受けられるようになった。

そして、大企業によるベンチャー支援バブルが起こり、資金さえあれば誰でも思い立った時にCVCを設立できるまでの環境になってしまった。

その結果、慎重派だった彼らはいとも簡単にCVCを組成し、設立してプレスリリースをしただけであたかもスタートアップの支援に貢献していると勘違いする輩も出てきた。

実態は、投資判断のできる人材ではなく、上司から命令されてスタートアップ投資部門に配属された一大企業の社員が運営を任されているという酷い有様のところも存在する。

これらの行いは、ヒトモノカネが揃っている神的な存在にも映る大手企業による暴走のようにもスタートアップ側からしたら見えてしまう。

実際、昨今の大手企業によるCVC設立のニュースに飽き飽きしている読者の方もいるのではないだろうか。

 

さて、前置きが非常に長くなってしまったが、何もCVCを設立している大手企業を批評したい訳ではない。

今回は、今年に入ってCVCを設立した大手企業の特徴をお話しすると共にCVCの紹介していく。

こんな企業がスタートアップ支援に乗り出したんだ
ということを知ってもらうと共に、これまでとは方針を変えた昨今のCVCの設立事情皆さんと一緒に見ていきたいと思う。

 

 

大手のスタートアップ投資参入、2019年の変わりダネ

 

勝算を見据えた戦略的CVC設立

 

私自身、2019年に入り最初に驚いたのは日本航空(JAL)のCVC設立ニュースだ。

今年1月に、約80億円規模のファンドを設立したJAL。

JALなだけあって、航空インフラをはじめとした輸送系のスタートアップや旅行系に投資を行うそう。

JALのファンドの運営を担うのは、トランスリンクキャピタルの大谷俊哉・共同創業者兼マネージング・ディレクター

自社ないから投資部門担当者を決定するのではなく、ファンドの専門家に決定権を委ねている点は他のCVCとは異なるため、期待はできる。

また、実はJALはスタートアップとの関わりは既に持ち合わせていた。

4年前から古着からバイオ燃料を作るスタートアップとの提携を結んでいたり、アメリカのファンドと共同出資の経験などもある。

また、宇宙開発事業会社ispaceへの出資も行なっていた。

それらの経験を踏まえた上でのCVC設立、そして大手特有のスピード感のなさや目利き力の不足を踏まえた上での外部ファンド運営社に決定を委ねている姿勢を見ても、勝算はありそうなCVCの一つではないだろうか。

 

 

医療系スタートアップへの投資白熱か

 

また、今年の上半期は、医療大手からも大きな動きがあった。

衣料品メーカー大手のエーザイが、新薬開発などを手掛けるスタートアップ企業に対して総額150億円もの投資事業を5月にスタートした。

なかなかイノベーションが起こりにくいとされていた医療分野にもITが流れ込み、近年医療系スタートアップが増え始めた。

こうした時代の波に乗るべく、エーザイもスタートアップ投資に踏み切ったのであろう。昨年も、武田薬品工場やアステラス製薬といった製薬大手が医療関連分野へのスタートアップ支援に乗り出している。

同じく5月に、東芝は精密医療への参入を発表した。

エーザイほどではないが、それでも多額の100億円という額をスタートアップ支援に活用するとして2014年にCVCを組成している。

東芝は既に2つのファンドを持っており、医療ヘルスケア領域で28社の技術系スタートアップ投資を行なっている

2019年の精密医療参入と同時に、主に医療系のスタートアップに投資を行うVCのBeyound Next Venturesとの業務提携も発表した。

 

大手によるスタートアップ支援の当たり前化

 

他にも、2018年頃から電力会社やガス会社といった国内大手インフラ系企業のスタートアップ支援が目立つ

九州電力がLPとしてVCである環境エネルギー投資と戦略的パートナーを締結し、出資を行なっている。

西武ガスは2019年3月に、最大60億円のCVC設立を発表

もはや大手企業によるスタートアップ支援、CVC設立は王道となってきているのではないだろうか。

余談だが、私的には働き方改革で一時期話題に上がったロート製薬が近い将来CVCを設立するのではないだろうかと踏んでいる。

過去にロート製薬は、ヘルスケアスタートアップのFiNCテクノロジーズに出資を行なっている。

また、東大発バイオベンチャーのユーグレナとSMBC日興証券、リバネスが共同で組成した「次世代日本先端技術育成ファンド」(リアルテック育成ファンド)にもLPとして出資を行なっている。

 

大手が続々LP出資に参加

 

ロート製薬のLP出資の話を先ほど出したので、次は大手企業のスタートアップ支援の延長でもあるLP出資について見ていきたい。

2019年5月にドローン関連スタートアップ支援のドローンファンド2号が組成された。
ファンド規模は52億円とドローンを専門に投資するファンドとしては大規模である。

そこにLPとして西武ガスや日本郵政キャピタルや東京電力ベンチャーズなどが新規で参画している。

 

 

近年の大手CVC、投資対象は日本ではなく世界

 

これまでは大手企業のスタートアップ支援は国内での活動が多かったが、起業の聖地シリコンバレーをはじめとして中国の経済急成長や新興国の躍進からアジア圏への投資活動が活発化してきた。

例えば、日本国内企業初の売上30兆円を叩き出したトヨタ自動車(以下トヨタ)もそのうちの一つである。

トヨタはアメリカ合衆国に、人工知能や自動運転・ロボティクスなどの研究開発を行なうトヨタ自動車の研究機関トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)を設置している。

一号ファンドであるVCファンド「Toyota AI Ventures」(以下TAIV)はTRIの子会社として2017年に設立された。

実績としては、これまでに19社のスタートアップに投資を行なっている。そして2019年に、新たに2号ファンドを設立。

ファンドの総額は2億ドル以上にも及ぶ。

TAIVはシリコンバレーを拠点としており、二号ファンドは、今後さらに市場が大きくなる自動運転を応用したスタートアップやドローン企業にさらなる投資を行う予定だ。

 

また、他にも2019年4月に日立製作所が160億円規模のCVC設立を発表し、6月にはCVC新会社Hitachi Ventures GmbH(HVG)を設立。

欧州や米国を中心にスタートアップへ出資をする。

投資先の選定はHVGが行い、スタートアップ投資の経験が豊富な外部人財を採用し、世界各地のスタートアップ企業への投資と協創を推進するそう。

HVGのリーダーには、アメリカのCVC「3M New Ventures」の立ち上げと運営を進めてきたステファン・ガブリエル氏が就任している。

 

 

おわりに

 

世界的に見てもCVCの設立は活発化しており、日本にもその波が来ている。

ただ、アメリカの2兆円や中国の7000億円というCVCの投資規模と比較すると、日本は2000億円とまだまだ少ないのが現状でもある。

日本のCVCの問題点として、目利き力の不足や社内外ネットワークの欠落、目的の不透明性などが挙げられているが、近年のCVC設立ニュースを見ていると、それら問題点を着実に改善しようという動きが各CVCに見受けられる。

これまでのCVCのイメージは、「VCの出来損ない」「資金の使い方が迷子となった大手の逃げの一手」などであったが、今後CVCの存在がスタートアップ界隈を大きく左右するようになるのではないだろうか。

 

 

参照元URL一覧

5年間で3倍に膨らむ世界のCVC 日本の金融機関における取り組みは
https://innovation.mufg.jp/detail/id=215

トヨタ自動車、日本企業初の売上30兆円を達成 2019年3月期決算
https://response.jp/article/2019/05/08/322081.html

スタートアップ投資熱再び 日本の大企業、ハイテク戦略必須 (1/3ページ)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/190429/bsm1904290650001-n1.htm

日立が約160億円規模のCVC設立へ、欧州や米国中心にスタートアップへ出資
https://jp.techcrunch.com/2019/04/26/hitachi-cvc/

日立、イノベーションの創出を支援するためのコーポレートベンチャーキャピタルファンドを設立
https://jp.acrofan.com/detail.php?number=77457

エーザイ、スタートアップ投資150億円 まず医師向けアプリ企業に
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44522490Y9A500C1TJ2000/

東芝が精密医療へ参入、医療系VCとも業務提携
https://medit.tech/toshiba-beyond-next-alliance/

西部ガス、最大60億円のCVC スタートアップに投資
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42976820X20C19A3LX0000/

武田など製薬大手、医療スタートアップ支援でタッグ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30852540T20C18A5X11000/

ユーグレナなど3社、研究開発型ベンチャー支援で20億円規模の新ファンドを設立
https://jp.techcrunch.com/2015/04/10/euglena-launches-a-new-fund/

日本郵政や東電系、ドローンファンドに出資 配送活用
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44435790U9A500C1EA3000/

ドローン関連スタートアップ支援の「Drone Fund 2号」が52億円調達
https://jp.techcrunch.com/2019/05/07/drone-fund-2/

トヨタのVCファンド、1億ドルの2号ファンド設立—自動運転やロボティクス
https://response.jp/article/2019/05/03/321949.html

Toyota AI Venturesが110億円規模の2号ファンドを設立、「マイクロモビリティー」などにも着目か
https://jp.techcrunch.com/2019/05/04/toyota-ai-ventures-fund-two/

【大企業のCVC設立が活発化。CVCに求められる4つの要素とは?】~ニッセイ基礎研究所によるレポートを紹介~
https://eiicon.net/articles/508