エブセレ運営者/代表
VCとスタートアップのことに精通しており、
これまで学生から50代まで累計1000人以上のキャリア相談を
受けてきた20代女性起業家
実際にベンチャーで働きたい相談から、
そもそもベンチャーってどういうの?まで幅広くお話伺います。
皆さんは、『スタートアップ』と聞いてどんな業種を思い浮かべるだろうか。
東京の高層ビル、キラキラしたオフィス、AIやIoT、ドローンといった最新技術・・・
主に日本のスタートアップが展開している事業は、第3次・第4次産業に集中している。
スタートアップといえば、『まだこの世にないものを生み出す企業』として、最新の技術を駆使して人々をアッと驚かせるような立ち位置だと考えるのが世間のイメージに近いものかもしれない。
しかし、今やスタートアップはご存知の通り、これまでの既存産業にメスを入れる“起爆剤の役割”も担っている。
政府をはじめとしてベンチャーキャピタルの発言やメディアでも表記される「レガシー産業に挑戦するスタートアップ」とはこのことだ。
というわけで、今回はタイトルにもある通り、レガシー産業の中でも特に“農業”に注目して、今、日本の農業市場で何が起こっているのかを取り上げていく。
農業市場のいま ー衰退産業に新たな動きー
農業は一次産業であり、衰退産業の一つとも言われている。
日本の少子高齢化が進み、人手不足が深刻化しているため、農業人口が減少しているからである。
1965年には1000万人以上いた農業人口が2015年の時点でわずか200万人にまで減少。
その結果、国内の食料自給率も7割以上あった2000年代に比べると、今では4割弱にまで落ち込んでしまった。
仮にこの状態で、輸入などが滞ったり、制限のために海外からの物資を国内に入れることができなくなれば、日本はたちまち食糧難に陥ってしまう。
また、農家の間にも貧富の格差は存在しており、農業全体の存続が危ぶまれているのが今の現状である。
しかし、そんな農業市場ではあるが、近年明るいニュースが出てき始めた。
国内スマート農業市場規模が2025年には400億円に
人手不足が深刻化する農業市場だが、農業用ドローンや農業用ロボット、センシング技術やAI、画像解析などのスマート農業関連の事業を展開するスタートアップや大手企業の農業市場参入により、市場規模が2017年度に128億円を突破した。
このままいくと2024年には3倍の約400億円になると見込まれている。
この成長水準を見ても分かる通り、今、世界でみても農業は巨大ビジネス産業であると注目されている。
日本国内でも、農業市場に関する問題は様々あるが、世界にも様々な問題が顕在化しつつあり、深刻な影響を受けている。
例えば、アフリカは水不足が深刻化しているため、水という観点から持続可能な農業が求められている。
一方で、人口増加により、農作物市場は110兆円を超えている。
そして、アフリカは広大な未開拓地を有しているため、農業市場は100兆円を超えると予想されている。
他にも、中国やインドなども農業市場の大幅な成長が見込まれているため、農業はトレンド市場となっている。
農業にドローン?農業スマート市場で増えるスタートアップ
世界的に見てもトレンド市場である農業。
今、その農業市場にはスタートアップや大手企業の参入、また大手企業による農業スタートアップへの支援が著しく増えている。
本節では、スタートアップの農業市場への取り組みを紹介する。
2017年頃は、「栽培支援ソリューション」、いわゆる農業クラウド・複合環境制御装置・畜産向け生産支援ソリューションなどが市場の中心であった。
そして、2018年は、「販売支援ソリューション」や気象予測と連携した「経営支援ソリューション」、農業用ロボットや農業用ドローンなど、農機の無人運転を実現するシステムが市場のトレンドを占めた。
農業市場に参入するスタートアップは、AIやドローン、センサーを活用した『アグリテック』と呼ばれる分野で急成長を遂げている。
具体的な企業の事例をピックアップしてお伝えしていこう。
inaho株式会社 https://inaho.co/
ビニールハウスでの野菜収穫ロボットを開発する神奈川のスタートアップ。農作業における負担を減らしつつ、農家の人出不足を解消するために、2017年ごろから農業収穫ロボットの開発に取り組む。2018年の末には農家での実証実験を行い、実用のめどが立った。2022年までに九州全県でロボットの共有拠点を24カ所で開設する目標を掲げている。
メビオール株式会社 http://www.mebiol.co.jp/
目に見えない無数の穴が空いた特殊なフイルムを用いた栽培方法により、高糖度フルーツトマトなど高栄養価野菜を生産するシステムを開発したスタートアップ。この技術により、栽培環境が厳しいところでも栽培が可能となるため、2017年にメビオールはロシアのトマト生産最大手である「エオコカルチャー」との事業定期を結ぶなど、日本の技術をグローバルに展開しているスタートアップである。
株式会社スカイマティクス http://smx-iroha.com/
ほ場の様子を上空からドローンで撮影し、作物の育成状況を一目で把握できるサービスを提供するスタートアップ。撮影した画像をAIで解析し、収穫量などの予測を行えたり、除草剤が必要なところをピンポイントで見つけ、コスト削減などに役立つ。これまで人の感覚値や暗黙知で行われていた作業が、AIとドローンで見える化され、より効率的で正確な実証的作業へと変化する。
株式会社ファームノート https://farmnote.jp/index.html
酪農・畜産向けのIoTソリューションを提供するスタートアップ。群れごと肉牛・乳牛を管理することのできるため、病気や出荷状況などを簡単に管理することができるシステムである。2018年11月には4億円の調達を終えており、累計の調達額は17億円に登る農業スタートアップ。クラウドサービスではあるが、ここまでの大型の資金調達を行えるのは成長企業と言える。
大手企業の農業事業への参入活発化
農業市場には、スタートアップだけでなく、国内の既存企業も新規で参入している。また、自社で参入せずとも、農業系スタートアップへの支援も盛んに行われている。
農業系スタートアップへの支援の事例としては、農業や食、組合員の暮らしなどの分野で、スタートアップと連携し、新たなサービスや商品を開発するアクセラレータプログラムを始めたと発表した農林中央金庫。
農林中央金庫は、アクセレラレータプログラム以外にも、イノベーションラボを東京都内に開設したり、スタートアップであるアグリゲートやルーレットワークスにも出資を行っている。
また、日本航空も他者との連携による新規事業に力を入れており、フィンテックやロボティクスの領域などに注目している。同じく、農業分野にも精力的に活動しており、2018年には農業生産などのノウハウを持つ和郷と共同出資会社を設立している。
国内の既存企業で農業関連事業に参入した例としては、旅行会社のJTBとスタートアップ支援で今話題のJR東日本である。
JTBは、2020年のオリンピック開催によるさらなる訪日観光客の増加を見越して、日本の伝統的な食文化や農業に観光を結びつけ、新しい日本の魅力を国内外に伝えることで、地域活性化につなげていくプロジェクトを始動させた。
JTBならではの施策ではあるが、イチゴ狩りツアーや茶摘み体験などを企画し、地方の生産者と共同で外国人観光客向けに展開した。
また、JR東日本は農業生産者の流通経路を確保する鉄道ネットワークというリソースを最大限に活用した取り組みを行う。
さらには、JR東日本東北総合サービス株式会社、さらに地域農業者の方々と共同出資して「株式会社JRアグリ仙台」という新会社を2017年1月に設立している。
JR東日本の経営構想の一つである「地域との連携強化」に寄与するものだ。
農業は一次産業であるが故に衰退産業と位置付けられる期間が長かったが、ITの発達により農業市場の中にも新たな市場、「農業スマート市場」なるものが誕生した。
それにより、新規参入するスタートアップや大手企業が増え、今やグローバルで見ても巨大ビジネス産業であると位置付けられるほどになった。
400億円にもなる農業スマート市場にこれからどんな波が来るのか、これからも動向を追い続けたい。