さて、前編ではJR東日本スタートアップの具体的なアクセラレーションプログラム内容と実績についてお伝えしてきた。後編では、そんなJR東日本の行動からわかる「CVCがスタートアップ支援を攻略するためにやるべき2つのこと」について分析していく。

 

CVCがスタートアップ支援を攻略するためにやるべき2つのこと

 

その①自社のリソースを理解して最大限に活用した連携プレー

>JR東日本は網羅性を武器に連携を進めた

 

現在日本では、東急電鉄、東京メトロや京急など多くの鉄道会社がスタートアップ向けのアクセラレータプログラムを提供しているが、それら鉄道会社とJR東日本との大きな違いはなんと言っても規模の大きさだろう。JR東日本は関東圏はもちろんの事、東北から上信越までのエリアを網羅している。具体的な数字でいうと、営業キロは7,457.3km、駅数1,666駅と国内最大級を誇る鉄道会社である(参考として、東急電鉄の営業キロは104.9km、駅数97駅と規模の違いは一目瞭然だろう)。

そんな網羅性を兼ね備えるJR東日本は、スタートアップの広報や実証実験などを、地方自治体や各JR駅、駅ナカの飲食店などと連携して行っている。

JR東日本と連携しているスタートアップの中で、エブセレが一番オススメするスタートアップを一つご紹介したい。

 

・ecbo株式会社

2017年にJR東日本のアクセラレーションプログラムで審査員特別賞を受賞した、ecbo株式会社である。同社はオンライン荷物預かり予約サービス「ecbo cloak」の運営を行っている。

ecboは2015年の創業。当初はオンデマンドの収納サービスを手がけていたが、店舗の遊休スペースを使った荷物預かりプラットフォームecbo cloakを開発し、2017年1月から渋谷や浅草エリアを中心に約30店舗からサービスを始めた。2018年2月6日には数億円規模の資金調達を実施しており、その出資ラウンドにJR東日本も参加している。資本提携だけでなく、JR東日本スタートアッププログラムの一環として、東京駅の手荷物預かり所における手荷物預かりのオンライン予約の実証実験も行っている。

JRという日本の電車交通インフラを牛耳っている大手企業との資本業務提携により、ecbo cloakサービスのさらなる拡大が予測される。インバウンド事業が引き続きトレンドになるため、日本人の旅行者だけでなく海外観光客もターゲットとなる。

 

また、JR東日本は地方自治体とも連携してスタートアップ支援を行っている。

スタートアッププログラムの実証実験でも度々出てきた“東北”というキーワード(*詳しくは前編の記事をご覧ください)。

JR東日本は、管轄でもある東北地方ともスタートアップ支援を行っている。具体的には、外国人向けのガイドサービスやSIMカードサービス、決済サービスなどを提供する各スタートアップの実証実験の場所として東北が活用されているのである。

東北と外国人観光客?と少し疑問に感じるかもしれないが、東北は近年、外国人観光客の増加が著しく伸びている。2017年の訪日外客数は2,869万1千人で2016年と比べるとなんと19.3%も増加しているのである。

(参照http://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/chikoushin/21chikoushin/ks-chikoushin21_shiryou4-1.pdf)

外国人観光客増加の影響で、こうした地方自治体とスタートアップとが連携する取り組みが少しずつ増えてきているのである。

 

そして、JR東日本のスタートアップ支援として最近のニュースといえばやはり、JR大宮駅でのスタートアップ技術体験イベント「STARTUP_STATION」ではないだろうか。

未来の駅のサービスを体験できるイベントとして、6社のスタートアップのサービスを展示してJR駅利用者に紹介する。

駅に展示したところで駅利用者は足を止めてじっくり見てくれないだろう…

と感じてしまうかもしれない。しかし、そもそもスタートアップを知っている人や興味を持っている人、はたまたスタートアップに触れた人がこの日本にはまだまだ少ない。

だからこそ、有象無象に短期間で多くの人の目に止まることが本イベントでの大きな趣旨ではないだろうかと筆者は予想する。

数日間展示していれば、毎日JR大宮駅を利用するユーザーは「今日は少し早く帰れたから覗いていこうか」「〇日は都合が合えば見れるかもしれない」と思いながらイベントブースを通過するだろう。スタートアップとの最初の接点はそれくらい軽いものの方がいい。

こうした知名度のある大手企業がスタートアップのPR広報を後押しする取り組みがもっと増えてほしいものである。

 

 

その②起業家からの信頼性と知名度を獲得

>JR東日本はプロサポーターと豪華な審査員を巻き込んだ

 

JR東日本は元々スタートアップ支援が強い企業であったのか?と問われれば、それはもちろんNOであろう。

そのため、JR東日本は第一回目のスタートアッププログラムからサポーターにデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社(以下デロイトトーマツ)を抜擢している。

デロイトトーマツで有名なスタートアップ関連のイベントといえば「Morning Pitch」ではないだろうか。2013年1月から始まり、2017年7月の時点で全200回、累計950社超のスタートアップが登壇している。デロイトトーマツがスタートアップ3,000社、大手企業500社のネットワークを有していることから、スタートアップと大企業との事業提携を生み出すことに強い企業であるというのは自明である。

大企業がスタートアップ支援に手を出しても、人が集まらない理由の一つとして「本当にこの企業のサポートを受けて成長できるのか?意味があるのか?」という疑念がぬぐいきれないからであろう。そのため、大企業がスタートアップ支援を行うにあたり、バックにデロイトトーマツのようなスタートアップ業界で知名度のあるサポーターをつけることで、大企業のスタートアップ支援に信頼性が帯びる。

また、余談ではあるがJR東日本は外への支援だけでなく内側の支援にも力を入れ始めた。

大企業がオープンイノベーションやスタートアップ支援を行うためには、人材の課題が挙げられる。もちろん、外部から優秀な人を雇ったり、外部のプロフェッショナルと連携して進めていくのも一つの手ではあるが、やはり社内の人材一人一人がスタートアップマインドを持ち、イノベーションへの視座が高い方が将来のことを考えるとプラスである。

そう考えたJR東日本は、社内のイノベーターを発掘する新事業創造プログラム「ON1000」(オンセン)をスタートすると2018年9月に発表した。社内ベンチャー制度の一環として行われるこのプログラムだが、対象人数は7.5万人と国内に数ある社内の新規事業創造プログラムの中では規模の大きなものとなる。また、対象者7.5万人というのはJR東日本グループ全社員の人数であり、部署や業種を問わず門戸を広く打ち出している点を見ても、JR東日本のイノベーションに対する考え方はスタートアップに近いものを感じる。

 

大企業がスタートアップ支援を行う上で、信頼の獲得と同じく重要なものが知名度の獲得である。

大企業がスタートアップ向けに支援プログラムを行うプレスをリリーシしたところで起業家の目に止まる確率は低く、さらに応募までつながる確率はもっと低い。

大企業が、スタートアップ支援を行うにあたり、知名度や話題性を獲得するためにやるべきこととしては、いかにそのスタートアップ支援サポートが魅力的で実用性の高いものなのかを起業家やスタートアップにアピールする必要がある。

その、アピールというものがJR東日本で言うところの何かと言うと、アクセラレーションプログラムの集大成として行われるデモデイの審査員である。JR東日本はこれまで過去2回のアクセラレーションプログラムの発表会の審査員として、VC業界からはPlug and Play Japanのヴィンセント代表やグロービスキャピタルパートナーズのマネージングパートナーでもある仮屋薗さんを招待している。そして、スタートアップ業界からはスターフェスティバル株式会社の代表である岸田さんや株式会社ロフトワークの林社長など名だたる起業家(代表者)を招待している。大企業が、単にプレスを打つだけではPRにならない。スタートアップ業界で知名度のある方々に審査員などで協力してもらうことで、彼ら自身が自分のSNSで発信・代わりにPRしてくれる。そうした取り組みがスタートアッププログラムの広報につながり、スタートアップや起業家への認知につながり、知名度の獲得につながっているのである。

 

以上、JR東日本の具体的な行動からCVCがスタートアップ支援を攻略するためにやるべきことを2つ紹介したが、どうだっただろうか。

当たり前のことに見えて、実は一番この二つができていないCVCが多い気がする。

スタートアップ支援をする当人、CVCを運営する当人が自社のリソース・強みを知っているようで知っていない。自社の強みをわからず、ただ上層部にCVCの運営やスタートアップ支援を任されているにすぎないという大企業のCVC運営担当者は少なくないのではないだろうか。

昨今、VCが支援先スタートアップのPRも担当する必要があるという意識変革がなされる中で、時を同じくしてCVCも投資をする以外の支援にも力を入れるべく、社内全体で今一度CVCのあるべき姿を考える必要性が出てきたのではないだろうか。