2020年に開業を予定している、JR山手線田町駅〜品川駅間にできる新しい駅の名前が

つい最近発表された。

 

高輪ゲートウェイ

 

賛否両論分かれているが、駅名一つでここまでニュースとして取り上げられ、SNSで広く拡散されていることから、今回の駅名はかなりのインパクトを国民全体に与えることができたのではないだろうか。

 

誰にも気づかれないくらいなら、炎上してでも話題性を取りに行く

 

これは、スタートアップに近い広報戦略ではないだろうか。

 

そんなJR東日本だが、最近のニュースは新しい駅名の発表だけではない。

今、JR東日本のスタートアップへの取り組み支援がとにかくすごい。活動期間で言えば浅いが、密度の濃いJR東日本のスタートアップ支援について今回も前編と後編で送りする。

 

前編ではJR東日本のスタートアッププログラム支援と実績について。そして、JR東日本が”スタートアップ支援に成功しているCVC”となるまでの軌跡についてを紹介する。後編は国内のアクセラレータとJR東日本の取り組みを比較して、どうしてここまで大きなムーブメントを起こすことができたのか、“JR東日本の巻き込み力”について分析していく。

 

起業家支援プログラム「アクセラレーターとインキュベーター」について

 

まず、本題に入る前に今回の大きなトピックでもある“アクセラレーター”と、それに近い“インキュベーター”についての簡単な基礎知識と違いについてお話ししていく。

アクセラレーターもインキュベーターも、ともにスタートアップ(または起業家)に対し、初期の段階から様々な支援をするプログラムあるいは施設である。

しかし、両者には圧倒的に違う箇所が2つある。それは、『プログラムの役割』と『プログラムの仕組み』である。

アクセラレーターは、既に存在するスタートアップのプロダクトやサービスの成長を加速する役割を担っている。一方インキュベーターは、アイデア段階で確立していないビジネスモデルやスタートアップという企業そのものを構築する役割を担っている。つまり、初期のスタートアップ(または起業家)と言っても、ビジネスモデルやプロダクト自体、会社自体があるかないかで区別して、アクセラレーター及びインキュベーターで異なる支援を受けられるのである。

次に、プログラムの仕組みについて。

アクセラレーションプログラムは、期間があらかじめ設定されており、個々のスタートアップが数週間から数カ月かけて、メンターの指導を受けながらビジネスを成長させ、期間最終日に行われるデモデイと呼ばれる発表会で、プログラムでの成果を披露するというものだ。

一方、インキュベーションプログラムは期間が定まっていない。

アクセラレーターが一定期間でビジネスを加速するために最適・最速な支援をする環境であり、インキュベーターは長い目で見て一つのものをともに作り上げていく環境である。

この2つのプログラムは、上記からもわかる通り性質が異なる。

そのため、ベンチャーキャピタルや大企業をはじめとする国内でスタートアップ支援を行う団体は、どちらか一方のプログラムを運営し、スタートアップに提供している。しかし、今回ご紹介するJR東日本スタートアッププログラムは、どちらも支援策としてスタートアップに提供している。

具体的に、JR東日本スタートアッププログラムについて見ていこう。

 

 

「JR東日本スタートアッププログラム」について

 

JR東日本は、2017年4月より『JR東日本スタートアッププログラム』を通じてスタートアップの支援を行っている。主に、駅や鉄道、JR東日本グループ事業のリソースを活用したビジネスやサービスを提供するスタートアップを対象に支援をしていくプログラムである。

JR東日本が提供するプログラムには、アクセラレーションとインキュベーションの二種類がある。

『アクセラレーションコース』では、既に製品・サービスまたはプロトタイプを持っていて、起業から10年以内を参加対象とし、プログラムの中でJR東日本との協業によるテストマーケティングを行う。

『インキュベーションコース』では、これから起業するまたは起業後間もないスタートアップを対象とし、JR東日本の協力・支援のもとビジネスアイデアの具体化を目指す。

JR東日本は、これまで2回スタートアッププログラムを行っている。2017年時のプログラムへの応募総数は237件、うちアクセラレーションコースで11件、インキュベーションコースで8件の計19件が採択された。2018年時のプログラム応募数は182件、うちアクセラレーションコースは18件、インキュベーションコースは5件の計23件が採択された。

 

では、採択された各スタートアップはどのようなところがあるか。

会社の情報とプログラム後のJR東日本との連携内容をお伝えしていきたい。

紹介の関係で、今回はアクセラレーションコースに採択されたスタートアップの企業情報と連携内容についてご紹介していく。また、2018年度に採択された18のスタートアップのうち、2社の海外の紹介も今回は省略させてもらう。

 

「JR東日本スタートアッププログラム」アクセラレーションコース卒業生一覧

 

 

・2017年度 アクセラレーションコース卒業生(11社)

サインポスト株式会社 https://www.signpost1.com/wonder/

AI搭載の無人レジ「ワンダーレジ」の開発・販売

JR大宮駅で無人レジの実証実験を行う

*最優秀賞を受賞

 

株式会社Huber https://huber.co.jp/

訪日外国人向けガイドマッチングサービスの運営

東北エリアにおいて訪日外国人向けの実証実験を行う

*優秀賞を受賞

 

WAmazing株式会社 https://corp.wamazing.com/

訪日外国人旅行者が旅行中に使うスマホ向けアプリ・SIMカードを提供

東北エリアにおいて訪日外国人向けの実証実験を行う

*優秀賞を受賞

 

ecbo株式会社  https://ecbo.io/

オンライン荷物預かり予約サービス「ecbo cloak」の運営

東京駅の手荷物預かり所における手荷物預かりのオンライン予約の実証実験を行う

*審査員特別賞を受賞

 

株式会社お金のデザイン https://www.money-design.com/

AI搭載ロボアドバイザーTHEOの開発・運営

JR東日本が提供するJRE POINT投資体験チャレンジ向けのプラットフォーム提供を行う

 

株式会社COUNTERWORKS https://www.counterworks.jp/

ポップアップストアのマーケットプレイス「SHOPCOUNTER」の企画・開発・運営

エキナカのオムニチャネル化に関する実証実験を行う

 

日本美食株式会社 https://www.japanfoodie.jp/

飲食店向けインバウンド決済・集客サービスを提供

上野駅構内の駅そば店「いろり庵きらく」で訪日外国人向けに、スマートフォン注文・決済の実証実験を行う

 

株式会社バカン https://www.vacancorp.com/

IoTとAIを活用した空席情報配信サービス

東京駅のカフェでデジタルサイネージを利用した空席案内サービス「VACAN」の運用を行う

 

株式会社バックテック https://www.backtech.co.jp/

労働生産性向上を目的とした腰痛対策アプリ“ポケットセラピスト”の開発

2018年5月22日にJR東日本より出資を受ける

 

株式会社フーディソン https://foodison.jp/

ITを活用した水産流通プラットフォームの再構築

JR品川駅でポップアップショップの展開

 

株式会社Mealthy https://mealthy.me/

ダイエット・肥満解消に関する健康的な食事情報のメディア運営

JR東京総合病院およびJR仙台病院での人間ドック受診者への実証実験を行う

 

 

・2018年度 アクセラレーションコース卒業生(16社)

 

PicoCELA株式会社 https://jp.picocela.com/

無線マルチホップ技術による屋外無線LAN環境構築

「キャッシュレス化」と「無線 WiFi 整備」をテーマとした青森県での実証実験

*スタートアップ大賞を受賞

 

メトロエンジン株式会社 https://info.metroengines.jp/

AI(人工知能)を活用した宿泊事業者向けサービス

2018年8月23日にJR東日本より出資を受ける

*最優秀賞を受賞

 

株式会社エイシング https://aising.jp/

ブレーキの予兆検知・消融雪機の最適稼働を目的に、機械学習(AI)による実証実験を行う

*優秀賞を受賞

 

株式会社ファーメンステーション http://www.fermenstation.jp/

地域資源の活用、付加価値化、プロダクツ化のコンサルティング

化粧品・雑貨等の原材料として利用するエタノールを発酵・蒸留させたりんごの搾りかすから生成する実証実験を行う

*青森市長賞を受賞

 

株式会社エアークローゼット https://corp.air-closet.com/

ファッションレンタルサービスの運営

無人パーソナルスタイリング体験をスタートアップステーション内で行う

 

エネフォレスト株式会社 http://www.eneforest.co.jp/

紫外線による空気殺菌を採用した殺菌装置の開発・販売

紫外線殺菌照射装置を使用し、駅設備などの空気環境改善効果を検証する

 

株式会社 Origami  https://origami.com/

QRコード式電子決済サービスを運営

青森の地域・行政と連携し、インバウンド向けQRコード決済を導入

 

Origin Wireless Japan 株式会社 http://www.originwireless.net/125071254012512.html

Wi-Fiセンサーによる侵入監視システムの開発

新宿等でカメラレス・センサーレスの侵入監視による作業員などの位置把握に使用

 

株式会社CAMPFIRE https://campfire.co.jp/

クラウドファンディングサービスの運営

クラウドファンディング活用による地域商品開発と無人駅の活用

 

ClipLine 株式会社 https://corp.clipline.com/

サービス業の技術習得支援プラットフォームを提供

鉄道車両メンテナンス作業における技術者育成支援への導入に関する検証を行う

 

株式会社 Showcase Gig https://www.showcase-gig.com/

無人店舗/キャッシュレスプラットフォームの提供

Suica対応の商品注文端末により無人オーダーカフェのデモンストレーションを行う

 

株式会社 TBM https://tb-m.com/limex/

石灰石を主原料とする再生可能素材である「LIMEX」を使用した傘のプロトタイプを製造

エキナカ傘シェアリング事業

 

tripla 株式会社 https://corp.tripla.jp/

AIチャットボットの開発・販売・運営

訪日外国人に向けたホテル・駅・レンタカーの案内、予約業務を行う

 

株式会社バズヴィル https://www.buzzvil.com/ja/home-jp/

ロック画面広告プラットフォームの提供

スマートフォンのロックスクリーンとJRE POINTサービスの連携

 

株式会社はなはな https://kyoukaimori.com/

大切な施設や農作物を守る鳥獣侵入忌避システム「境界守」の開発・運営

鉄道事業におけるシカ対策の実証実験を行う

 

株式会社ポケットチェンジ https://www.pocket-change.jp/ja/

外国貨幣の回収・換金を実現するサービス「Pocket Change」の企画、開発、運営

地域マネーとSuicaの連携

 

ここまでJR東日本のスタートアッププログラムについて詳細をお伝えしてきた。

ところで以前、APAMANグループのスタートアップ支援についてご紹介したがもう読んでいただけただろうか。(まだの方はぜひ一読してほしい)

近年、日本でも大手企業がスタートアップ支援を行うためにCVCの設立ラッシュが止まらないのは周知の事実である。一方で、CVCを設立したものの機能していないところが多いのも事実である。そして、CVCを設立している多くの企業は、CVCと並行してコワーキングスペースの運営やアクセラレーションプログラムを実施している。APAMANがコワーキングで成功しているなら、JR東日本はアクセラレーションプログラムで成功していると言えるだろう。JR東日本もAPAMANと同様、CVC設立を行う前に、アクセラレータという“土台作り”から入っている。

 

JR東日本スタートアップCVC誕生までの軌跡

 

JR東日本は2018年のCVC設立までに、2017年から「JR東日本スタートアッププログラム」とうたい、アクセラレーションプログラムとインキュベーションプログラムを開催し、スタートアップや起業家との接点作りを行っていた。

また、アクセラレーションプログラムの集大成として行われるデモデイの審査員として、VCであるPlug and Play Japanやグロービスキャピタルパートナーズ、スターフェスティバル株式会社や株式会社ロフトワークなど名だたる著名人を招待している。

さらには、スタートアップ推進支援のサポートをトーマツベンチャーサービス株式会社(主に起業から株式公開準備までのステージのスタートアップに対する成長支援を行う)と連携して行っている。

CVCが機能しない理由の一つに、実際に出資の支援をするスタートアップ(投資先)がいないという点があげられる。また、スタートアップ支援を行うための枠組み作りを徹底しておらず、支援体制が不十分な点もあげられる。

支援先の確保と、スタートアップ支援のプロフェッショナルとの連携。JR東日本は土台作りを行った上で、2018年2月に50億円規模のCVCを設立した。現在出資先・支援先スタートアップの数は30社に及ぶ。投資先企業には、スターフェスティバルやecboなどがある。

スタートアップ支援活動開始からわずか2年でここまで支援の手を広げられたJR東日本は成功例の一つと言えるだろう。

 

後編に続く