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2019年が始まって早3ヶ月。
2018年、日本ではメルカリが上場して「国内初のユニコーン企業が誕生」と世間ではとても話題となったのは記憶に新しいのではないだろうか。
さて、そんなユニコーン企業というワードを世間で耳にする機会が増えた今だが、そもそも“ユニコーン企業”という言葉が海外で誕生してからしばらくは、海外のスタートアップの成長スピードに日本が圧倒されてしまい、夢のまた夢の話であったような気がする。
しかし、メルカリという時価総額1000億円を超える勢いのあるベンチャー企業が日本国内に誕生したことがきっかけとなり、
これまでの「ベンチャー企業=倒産する・失敗するリスクが高い」というネガティブイメージだった一昔前に比べると、
どちらかというと「ベンチャー企業=イケてるかっこいい企業」というポジティブイメージに変化した。
今回は、そんなメルカリに続く国内の次のユニコーン企業について分析していく。
2018年に引き続き、日本経済新聞(日経新聞)が「NEXTユニコーン推計企業価値ランキング」を発表した。
2018年と2019年の国内の企業価値ランキングを比較して、国内スタートアップのトレンドがどのように1年で変化していったのか、今後注目されているスタートアップ市場はどこなのかを一緒に見ていく。
みなさんは、「ユニコーン企業」の定義について知っているだろうか。
「ユニコーン企業」と呼ばれるためには以下の4つの条件に当てはまる必要があり、
一つでも条件から外れてしまうと「ユニコーン企業です」と名乗ることができない。
条件1:企業価値10億ドル以上
条件2:起業10年以内
条件3:非上場
条件4:テクノロジー企業である
上記からわかる通り、ユニコーン企業とは評価額10億ドル(約1250億円)以上の未上場ベンチャー企業のことを示す。
今回、日済新聞が調査結果として発表した「NEXTユニコーン推計企業価値ランキング」の中で“いわゆる国内ユニコーン企業”はわずか一社に留まる(*次に詳細を記載)。
そのため、あくまでも日経新聞がまとめた「企業価値ランキング」は“次の”ユニコーン企業はどこかというのをまとめたものとなっている。
2018年vs2019年企業価値100億円以上のユニコーン企業 トップ20位
順位 | 2018年 (企業名・企業価値) | 2019年 (企業名・企業価値) |
1 | プリファード・ネットワークス
2326億円 |
プリファード・ネットワークス
2402億円 |
2 | メルカリ 1479億円 | パネイル 801億円 |
3 | Sansan 505億円 | Freee 652億円 |
4 | エリーパワー 404億円 | TBM 563億円 |
5 | Freee 394億円 | スマートニュース 561億円 |
6 | ビズリーチ 338億円 | Sansan 506億円 |
7 | TBM 292億円 | エリーパワー 404億円 |
8 | FiNC 225億円 | FiNCテクノロジーズ 356億円 |
9 | ラクスル 219億円 | フィナテキスト 342億円 |
10 | ボナック 217億円 | ビズリーチ 341億円 |
11 | ビットフライヤー 213億円 | origami 325億円 |
12 | セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 174億円 | dely 313億円 |
13 | ソラコム 173億円 | Looop 307億円 |
14 | CChannel 163億円 | Liquid 298億円 |
15 | GLM 151億円 | ispace 270億円 |
16 | グライダーアソシエイツ 149億円 | インアゴーラ 267億円 |
17 | お金のデザイン 132億円 | お金のデザイン 266億円 |
18 | フロムスクラッチ 127億円 | ウェルスナビ 262億円 |
19 | ペジーコンピューティング 120億円 | ペイディー 250億円 |
20 | Liquid 105億円 | ABEJA 235億円 |
参照:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23487810U7A111C1EA8000/
参照:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/next-unicorn/#/list
NEXTユニコーン企業のランキングを2018年と2019年とで比較してみると、2018年から変わらずランクインしているスタートアップは11社、新たにランクインしたスタートアップは9社であった。
freeeやSansanといった上場の期待されるスタートアップをはじめ、ビズリーチやお金のデザインもランクインしている。
2018年に1479億円の企業価値と予想されていたメルカリは、2018年6月に時価総額7172億で東証マザーズ上場を果たし、初日の終値は公募価格の3000円を大きく上回る5300円をつけた。
また、京大初のEVベンチャーであるGLMは、資本業務提携により香港の投資会社オーラックスホールディングスの傘下に入った。
これらのことから、ユニコーン企業と呼ばれるスタートアップは、単に過大評価されて終わるスタートアップではなく、結果を残す確実性の高い企業であると言えるだろう。
そんなユニコーン企業に新たに9社がランクインしたというのは、国内のニュースとしては明るい話である。
スマートニュースは株式上場に向けて事業拡大を2017年頃から加速させ、マザーズではなくいきなり東証一部上場を目指していると噂もされている。
また、宇宙開発スタートアップのispaceが第15位に新規ランクインしたことは、政府が掲げる「宇宙産業ビジョン2030(現在約1兆2000億円とされる日本の宇宙産業の市場規模を2030年代には倍増することを目標とする)」から見ても頷ける。
さて、前置きが長くなってしまったが、今回の記事では「AI」と「フィンテック」をキーワードに2019年のNEXTユニコーンランキングを分析していきたい。
2019年はさらにAIが加速を増す予想
NEXTユニコーン企業の第一位は、2018年に引き続きプリファード・ネットワークスであった。プリファードは、AIの深層学習開発に特化している企業である。
2017年にはトヨタ自動車から105億円の資金調達を完了し、それ以外にもNTTやファナック、日立製作所といった日本の名だたる有名企業と提携を結んでいる大注目のスタートアップである。
2017年に上場を果たした東京大学発の人工知能開発スタートアップのPKSHA Technologyが上場初値は5480円と公開価格である2400円の2.3倍を付けたことからも、AIスタートアップは市場でも注目を集めている。
まだまだブルーオーシャンであるAI市場は、どんなビジネスを展開しているスタートアップでも相関性があり取り入れることができるため、2019年以降さらにAIスタートアップは生まれてくると予想される。
また、社会の流れに乗り遅れないためにもAIを導入しようとする既存の大手企業も多く、AIスタートアップは上場だけでなく、M&Aも期待される市場である。
ではここで、2019年のNEXTユニコーン企業第2位にランクインしたAIスタートアップのパネイルを見ていこう。
2012年創業のパネイル、もともと太陽光発電を利用したい消費者と施工者をマッチングさせるビジネスを展開。しかし、事業がうまくいかず2014年にピボットを余儀なくした。
現在パネイルは、人工知能(AI)とビッグデータを利用した電力需給プラットフォームの研究・開発を行なっている。
そして2018年6月には、Ad Hack Venturesやインキュベイトファンド、他9社のVCやエンジェル投資家などから19億3000万円を調達した。
また、丸紅新電力と共同で会社(丸紅ソーラートレーディング株式会社)を設立したり、『Forbes JAPAN』の「日本の起業家ランキング2019」にパネイルの代表である名越さんが6位に選出されたりと今注目されているスタートアップなのである。
また、もう一つ注目しておきたいのが、2019年1月10日にフォースタートアップスがインキュベイトファンドが運営するファンドを通じてパネイルに出資したことだ。
この事例の特徴としては、人材紹介会社であるフォースタートアップスがHRパートナーとしてパネイルに出資を行い、同社のヒトの支援を行うとともに株式を数%所有するという点だ。
国内には、人材紹介会社がスタートアップの株式を所持するという例は稀である。
現在、国内の様々なVCが投資先スタートアップへの支援活動としてHRを掲げて、ヒトのサポートを行なっている点から見てもわかる通り、今後スタートアップへの支援に人材紹介会社をはじめとして、ヒューマンリソースに関わる企業が参入してくることが予想されるであろう。
人々の生活に、より身近なものとなったフィンテック
2018年と2019年のランキングを比較してもらうとわかる通り、2019年ランクインしたスタートアップで目立つのは、“フィンテック領域”のスタートアップである。
2018年には、ビットフライヤーとお金のデザインの2社しかスタートアップがランクインしていなかったが、2019年にはフィナテキスト、origami、ウェルスナビ、ペイディーと4社が新たにランクインしている。
2014年以降にフィンテックという言葉が金融業界のみならずスタートアップ界隈でも注目され始めてから早5年、現在の国内フィンテックの市場は1兆円を突破している。
インターネット上で融資を受けられるソーシャルレンディング、クラウドファンディング、投資/運用サービス、決済サービス、ブロックチェーン、クラウド型会計サービスなど、フィンテックはさまざまな領域でサービスが展開されている。
これまで投資や資産運用といった金融サービスは、富裕層だけが関わるものと一般の消費者からは切り離されている感覚値であったが、インターネットの発達により、誰もが情報を簡単に得られる時代となり、徐々にプレイヤーが増え始めた。
そのため、そういった金融サービスを誰でも手軽に受けられるような仕組みを提供するスタートアップや、投資に関する正確な情報を提供するスタートアップがある。
余談だが、2018年6月にマザーズ上場した株式会社ZUUも、金融業界の抱える「顧客側の金融リテラシー不足」という課題を解決する金融メディアを運営している。
また、決済系スタートアップもこの数年で増加した。
これまで現金支払いが常識であった日本だが、2020年のオリンピック開催を踏まえて、国内でも様々なところでキャッシュレスの取り組みが本格化しているのが近年の動向である。
2018年版キャッシュレスカオスマップによると、国内にはコード決済系サービスは13個ほどある。
電子マネー決済やバーチャルプリペイドカードなどキャッシュレスの熱は、そこまでスタートアップに詳しくない人でも生活の中で感じているのではないだろうか。
PayPayの100億円お年玉キャンペーンの記憶も新しい。
決済系のサービスが増えすぎて半ば乱立状態となり、ユーザーの中には「いったいどれを使えばいいのか?」と困惑している人もいる。
その反面、私たちの生活により身近な存在となっているのである。
例えば、ECサービス。決済系サービスが誕生したことで、大きな変化があった。
社会ではスマートフォンが普及したことで、これまで店舗に買い物に行くのが当たり前だったのが、オンライン上で買い物をすませられるようになった。
一方で、ネットでの買い物は決済までの手続きが面倒という懸念点もあった。
そこで、ECサービス決済サービスが導入され、ECサービスでいかに簡単に決済ができるかというのに注目が集まった。
今では、オンラインのみならず店舗でもバーコード決済をはじめとした様々なキャッシュレスサービスが見受けられる。
「決済系スタートアップ」と聞くと、馴染みの薄いもののように感じられるが、今やユニコーン企業と言われるスタートアップのサービスの多くが私たちの生活に浸透しているのである。
おわりに
ここまで、国内のNEXTユニコーン企業について分析してきたが、対世界で見ると、日本のスタートアップはまだまだである。
世界のユニコーン企業数は2018年12月末時点で295社。そのうち日本は1社のみ(メルカリ)。
NEXTユニコーン企業には、2018年にランクインしていた企業もあれば、新たにランクインした企業もあった。
世界から見るとユニコーン企業と言えるほどの時価総額をつけているスタートアップはほとんど存在していないが、たったの一年で大きく状況が変わるのがスタートアップ市場の特徴。
国内スタートアップの動向に今後も注目していきたい。